先日、ホテル阪急インターナショナルで第2回ラグビードクターフォーラムが開催され出席しました。
今回のテーマは熱中症でした。熱中症は重篤な事故に繋がってしまうので、スポーツの現場ではラグビーに限らず非常に注目を集めている分野です。
基調講演は「スポーツ重症事故:熱中症事故の経験から」日野病院整形外科尾原善和先生でした。シンポジウムは「熱中症への備えと対応 その実際的問題の改善のための提案」でシンポジストは大阪府立布施工科高校教諭佐光義昭先生、弁護士の望月浩一郎先生、熊本地域医療センター有田哲正先生で、それぞれの立場で具体的な提言を紹介して頂きました。特別講演は座長がラグビージャーナリストの村上晃一氏、演者が元ラグビー日本代表の大畑大介氏と大西将太郎氏、兵庫医大ささやま医療センターの岡山明洙先生でした。
尾原善和先生は熱中症への備えと対応として、セルフチェックシートの活用、強制給水、しんどい子への対応、熱中症を疑う症状(めまい、欠伸、筋痛など)への注意、などを挙げておられ、急激に進行することもあるので、経過を十分に見る、そして過剰とも思える対応をすることを勧めておられました。また指導者と安全対策委員を分けること、保護者にもご協力願って「保護者見守り隊」を結成すること、暑熱馴化をしっかりと行うことなども勧めておられました。また尾原善和先生はWBGT(湿球黒球温度)を遵守した試合設定と、日本体育協会による熱中症予防のための運動指針遵守を訴えておられます。「熱中症は予防できる、熱中症は身近で起こる。」という尾原善和先生の言葉は重いですね。
佐光義昭先生はコンディショニングチェック票の活用を紹介して頂きました。学校ならではの、練習を中止あるいは変更する勇気というポイントも披露して頂きました。望月浩一郎先生が示して下さった、頭頸部外傷や熱中症などによる重篤な事故、死亡事故などの起こる比率が、ラグビーにおいては他のスポーツより高いというデータはわれわれが心に深く刻むべき問題点であると言えるでしょう。
最後の特別講演はラグビージャーナリストの村上晃一氏の司会で進行されました。村上晃一氏は軽妙洒脱なトークで盛り上げてくれますが、日本で唯一と言っていいラグビージャーナリストです。村上晃一氏のトークにはラグビー愛が感じられますね。大西将太郎氏は現在もトップリーグで活躍しておられますが、やはり印象的なのは2007年W杯のカナダ戦での試合終了間際同点コンバージョンですね。大畑大介氏は2度のアキレス腱断裂など多くの怪我を乗り越えて日本代表のエースとして活躍したスピードスターです。また2001年、2003年にはTBSの「スポーツマンNO1決定戦」で優勝し、ラグビー選手のトップアスリートとしての能力の高さを証明してくれました。
それにしても、2選手とも常人ではない豪傑ですね。数々の大けがや手術を乗り越えて何度も復活した大畑大介氏も、一度も大きな怪我をしたことがないと言って今も現役を続けている大西将太郎氏も、普通の肉体の常人ではあまり参考にならないエピソードばかりかと思われました。村上晃一氏の司会で十分に楽しめた特別講演でした。
今回のラグビードクターフォーラムの世話人の外山幸正先生、杉本和也先生、中村夫佐央先生、岡山明洙先生はいずれも私が平素からお世話になっている方々で、いずれも関西ラグビーの医務を牽引しておられる先生方です。今回のラグビードクターフォーラムは参加者も非常に多く、大盛況でした。次回は、来年に九州で第3回ラグビードクターフォーラムが開催されることが決定されました。
柴田トヨさんの「くじけないで」を読みました。
柴田トヨさんは92歳から息子さんの勧めで詩を書き始め、「くじけないで」は産経新聞の「朝の詩」という詩の投稿欄の常連であった柴田トヨさんが98歳の時に刊行されたミリオンセラーの詩集です。
柴田トヨさんは「私の軌跡」でこの様に言っておられます。
どんなにひとりぼっちでさびしくても考えるようにしています。「人生、いつだってこれから。だれにも朝はかならずやってくる」って。
誰しも励まされる言葉ですね。
先日、柴田トヨさんがお亡くなりになったのは本当に残念に思います。
ご冥福をお祈りいたします。
関節が動く範囲を維持または拡大する訓練を関節可動域訓練といいます。
例えば、膝を曲げる方向に可動域を拡大したい場合、膝を無理やり曲げたり、痛みを我慢して押し込んだりしても、膝は綺麗に曲がるようになるわけではありません。
関節にはそれぞれその人が本来持っている運動軌跡があります。痛みが生じているということは、その人が本来持っている運動軌跡から逸脱していたり、組織に何らかの負担がかかり炎症を起こしている可能性が考えられます。そのため、無理な関節運動は痛みや筋の緊張を助長して、余計に関節の可動域を制限してしまうことがあります。また、硬い組織と柔らかい組織のバランスが悪い状態で無理に組織を伸ばそうとすると、柔らかい組織ばかりが伸びてしまい、関節が不安定な状態になる可能性があります。そのため、無理なストレッチングには注意が必要です。
関節の運動軌跡は、関節の形態や軟部組織の状態、普段の動作での使い方などが影響して、その人なりの軌跡ができあがっていきます。つまり、片側に外傷や障害、変形がある場合には、良い側の関節の動きが一番のお手本になります。また、両側に何らかの問題がある場合でも、基本的には痛みが出ないこと、関節が硬い状態で無理に動かさないことが綺麗な運動軌跡を引き出していくために重要となります。
関節可動域訓練では、軟部組織の硬いところや短くなっているところ、周りの組織と引っ付いているところなどを改善し、組織の柔軟性のバランスを整えることが重要となります。また、痛みや安静固定などにより関節が不動の状態となるような場合では、関節の拘縮ができる限り起こらないように予防を行うことが重要です。そして、関節の周りにある軟部組織が柔らかくなった分、痛みのない範囲で可動域を拡げていくことで、その人なりの正常な運動軌跡を引き出すことを目指していきます。
リハビリテーション科 奥山智啓