Sport Japan vol.46の第1特集は「個性を生かす指導、個性を見いだす指導」です。 山梨大学大学院総合研究部教授尾見康博先生はかつて米国滞在をきっかけにスポーツに対する日米の考え方の違いに衝撃を受けたそうです。日本では、ともすると指導者の権威を重視する傾向があり、指導者、保護者までもが子どもを叱咤する風景も珍しくありませんが、米国では、どんな試合のあとでも「グッド・ジョブ!」「ウエル・ダン!」だそうです。尾見康博先生によりますと、勝利にこだわりすぎると個性が埋没してしまう、ということです。また指導者が適切な言葉を持つ大切さを指摘しておられます。個性派トップアスリートも、誰かが矯正して阻んでいたら、あるいは日の目を見なかったかもしれないことを考えると、個性を生かす指導、個性を見いだす指導は本当に重要と言えそうですね。 体操競技の白井健三選手の父である白井勝晃氏は体操競技指導者ですが、「一定の距離感を持ち、選手の自由な発想を大切にして、指導者はそこに肉付けをする。方向性は大きくずれていないよ、そうしたことを示してあげれば選手はどんどん伸びていく。健三の初の世界選手権を見て、私はそう確信しました。」と述べておられます。白井勝晃氏は発想を消さない環境、さらに、伸ばす環境作りの大切さを述べておられます。また一定の年齢までは子どもの手を放さず、次第にそれは目を放さずに変わり、やがて心は放さずに、となる様に、選手と適切な距離感を持つことが選手を育てる大きなポイントであるということでした。 京都造形芸術大学教授・舞台芸術研究センター所長天野文雄先生は能楽師・世阿弥が書いた能の伝書「風姿花伝」の中の「第一年来稽古条々」に見る年齢に応じた稽古、対処、指導法を紹介しておられます。世阿弥は室町時代初期の大和猿楽結崎座の猿学師で「風姿花伝」は世阿弥が父の教えや自己の経験をもとに書かれた能楽論ということですが、人生を7つの段階に分けた人生論は成る程!と思うことばかりで、年相応が大切という世阿弥の指摘は、現代にも通じることだと思いました。天野文雄先生は一生の芸は基礎から生まれるという世阿弥の教えは、スポーツにも通ずると述べておられます。 |