先日、名賀医師会予防接種講習会が開催されました。講演は「成人における予防接種」で講師は国立病院機構三重病院小児科・臨床研究部長谷口清洲先生でした。谷口清洲先生は麻疹、風疹、水痘、帯状疱疹、流行性耳下腺炎、B型肝炎、肺炎球菌、インフルエンザについての成人における予防接種を解説して下さいました。 当クリニックでは実施している予防接種は高齢者肺炎球菌とインフルエンザのみです。高齢者肺炎球菌定期予防接種については、先日平成31年度から平成35年度までの5年間、引き続き年度末年齢が65歳、70歳、75歳、80歳、85歳、90歳、95歳、100歳にある方を定期接種の対象とすることの通知がありました。定期接種としては1回のみ認められるということです。 インフルエンザ治療薬として昨年発売されたバロキサビルは1回の内服で済むので負担が軽く人気でシェアも第1位になったそうです。谷口清洲先生によりますと、効果、副反応はオセルタミビルと同等でウイルス量減少効果は高く、二次感染も減少するということですが、小児で23.3%の耐性ウイルスが出現したそうです。日本感染症学会では低感受性株の頻度が高いことから本薬剤の位置づけを見送ったということでした。インフルエンザ感染は体内の炎症を引き起こし心筋梗塞のリスクが高まるということですが、インフルエンザワクチン接種後の心筋梗塞の頻度は有意に低下したそうです。インフルエンザワクチンの効果は発症の予防だけではなく合併症予防であり、炎症を低く抑える効果により重症化予防に繋がっているということでした。やはり予防に勝るものはなし、ということでした。 麻疹患者の発生については、平成30年12月に津市内において研修会の参加者から複数の麻疹患者が確認されています。平成31年2月にあべのハルカスでの麻疹患者の集団発生もありました。最近では大阪府と三重県で麻疹報告が突出しているようです。谷口清洲先生によりますと麻疹は麻疹ウイルスによる感染症で、感染経路は空気感染、飛沫感染、接触感染、潜伏期間は10~12日(修飾麻疹では最大21日)、治療方法はないがワクチンで予防可能、30%でなんらかの合併症、最も多いのが下痢症、中耳炎で5~10%、肺炎6%、脳炎0.1%、SSPE5~10/100万例、死亡0.1~0.2%ということです。麻疹の臨床経過は潜伏期、カタル期(前駆期)、発疹期、回復期に分かれるそうですが、カタル期では麻疹と気づかれずに周囲に感染拡大させてしまう場合も多く、コプリック斑に気づかないとカタル期に麻疹と判断するのは難しいそうです。麻疹の予防は弱毒生ワクチンでMR(麻疹・風疹)混合ワクチンが定期接種に導入され、1歳と小学校入学前1年間の用時の2回接種で、効果は約97%、約3%の不応例があるということでした。麻疹ワクチンに対する反応性は遺伝子によって異なるそうで、ワクチンを3回接種しても抗体のできない人もおり、感染者と接触させない必要性があるということでした。 風疹は急性ウイルス発疹症で、潜伏期は2~3週間、癒合傾向の少ない紅色班丘疹、発熱、頚部リンパ節腫脹などを主徴とするそうです。成人では後頚部のリンパ節が特徴的であるそうです。予後は一般に良好ですが、血小板減少性紫斑病が3000人に1人、脳炎が6000人に1人、まれに溶血性貧血もみられるそうです。谷口清洲先生によりますと症状だけでは判断しにくい疾患であるということでした。妊娠初期に風疹ウイルスに感染すると、胎児に感染して、先天性風疹症候群(難聴、先天性心疾患、白内障および網膜症など)が高い確率で発生するそうです。風疹の予防は弱毒化生ワクチンで効果(抗体獲得率)は95%以上であるそうです。大量暴露時には免疫があっても再感染は起こりうるということでした。風疹含有ワクチンの定期予防接種制度は年代によって変化していますので、確認が必要なようです。医療従事者ガイドラインによりますと、ワクチン2回接種しても基準値以下に下がる例はあるが、確実に2回接種しておくことと、医療従事者は抗体が付かない場合にはそれを自覚しておくことが重要であるということでした。平成30年12月に厚生労働省から風疹に関する追加的対策として、1962年4月2日から1979年4月1日までの間に生まれた男性(現在39歳から56歳の男性)を風疹の定期予防接種の追加的対策の対象者としたという通知がありました。成人のワクチン接種を追加することにより、従来の定期予防接種のワクチンの確保が当面の課題のようです。 水痘の重症化例調査によりますと、1年間に100万人程度が水痘にかかり、最低でも4000人程度が重症化により入院し、20人程度の死亡者数と推定されるそうです。水痘は決して子どもの軽い病気と侮れないということでした。水痘ワクチンは我が国で世界に先駆けて開発され、1987年に任意接種として認可され、抗体陽転率は90%以上であるそうです。水痘患者と接触後72時間以内に接種すると水痘発症を阻止できるという報告もあり、米国では高齢者への接種で帯状疱疹の発症と症状が減少したそうです。日本の水痘ワクチンは帯状疱疹の予防に効果があるということですが、日本で高齢者に帯状疱疹ワクチンを大々的に接種するとワクチンは不足するそうです。 B型肝炎ワクチンの免疫の持続期間については、抗体価は時間の経過と共に低下するが、免疫記憶が残存するため、B型肝炎ワクチンは長期間にわたって有効性を示すそうです。予防したい人やハイリスク者にはB型肝炎ワクチン接種が必要であるということでした。 谷口清洲先生は成人における予防接種について、大変わかりやすく解説して下さいました。本当にありがとうございました。 |