先日、奈良医大整形外科同門会が開催され出席しました。その際に開催された講演会は「寝たきりゼロをめざす骨粗鬆症性骨折予防戦略」で講師は新潟大学大学院医歯学総研究科機能再建医学講座整形外科学分野教授遠藤直人先生でした。 遠藤直人先生によりますと2018年の日本における高齢化率は28.1%で、21%以上が超高齢者社会と言われますので、かなりの超高齢者社会と言えます。中でも75歳以上の増加割合が著明であるということです。健康寿命と平均寿命の差が拡大し、健康寿命延伸が求められる社会になってきています。遠藤直人先生によりますと、フレイル(虚弱)とは「加齢によって予備能力が低下し、ストレスに対する回復力が低下した状態」で要介護や寝たきりの予備軍であるということです。フレイルの概念は広範で身体的フレイル、精神・心理学的フレイル、社会的フレイルに分類されるそうです。ロコモティブシンドローム(ロコモ)は移動能力の低下をきたした状態で、介護が必要になり寝たきりになる可能性が高くなる状態です。骨では骨粗鬆症、関節軟骨、椎間板、脊髄・末梢神経では変形性関節症(膝、腰椎)、脊柱管狭窄症、筋肉ではサルコペニア(筋肉減少症)などがロコモティブシンドロームに関与します。日本における年齢別要介護要因を見ると若年者では脳血管疾患の割合が高いが、高齢者では運動器障害の割合が高くなり、健康寿命阻害因子となっているということでした。 遠藤直人先生によりますと骨塩減少(骨粗鬆症)は骨形成より骨吸収が増加した状態ですが、骨吸収が過度に亢進した状態と骨形成が追いつかない状態の2つの骨減少メカニズムがあるということでした。ステロイド服用中には骨は脆弱で骨折を起こしやすいですが、骨密度が比較的高値でも脊椎圧迫骨折するということでした。遠藤直人先生によりますと原発性骨粗鬆症の診断、鑑別診断には画像(X線、CT、MRI)、骨密度(骨量)と共に血液検査(カルシウム、リン、アルカリフォスファターゼ)は必須であるということです。副甲状腺機能亢進症症例では、レントゲン検査で高度の骨粗鬆症を呈していても、血中カルシウム高値であることを測定していなければわからないからということでした。骨軟化症(クル病)の場合は血中リン低値、アルカリフォスファターゼ高値でレントゲン検査にてLooser zone(骨改変層)が確認されるということでした。 遠藤直人先生によりますと骨折者における骨粗鬆症の治療は、2015年の調査では問診で6ヶ月間以上治療継続している例は14.9%であったそうです。骨粗鬆症診療において「骨折を予防しADL、QOLの維持向上を図る」目標のために、遠藤直人先生は“3T”という戦略を立てたそうです。これはTargetとして骨折高リスク者を対象とし、Toolとして患者さんへの骨折予防手帳等を使い、Teamとして多職種連携「リエゾンサービス」を活用するということでした。Target対象は骨折高リスク者であり、既存骨折者の骨折連鎖を断つことであるということです。脊椎圧迫骨折症例の45%は大腿骨頚部骨折に移行し、大腿骨頚部骨折症例の80%は脊椎圧迫骨折の既往があったそうです。大腿骨近位部骨折受傷後1年間における健側骨折発生数は、一般人口の同年齢群に比較して新たな大腿骨頚部骨折リスクは7.4倍であったそうです。遠藤直人先生はToolとして手帳を医療・予防継続のための啓発に活用しているということでした。遠藤直人先生は地域全体で多職種連携Teamを結成して急性期病院から介護・福祉生活支援を行い慢性期リハビリ病院、かかりつけ医と連携を行い治療継続することにより二次骨折防止へとつなげているそうです。 遠藤直人先生は骨折危険因子としてビタミンD不足(血清25(OH)D))を指摘されました。骨粗鬆症全般への薬剤選択は作用機序からビタミンDは骨への効果、筋肉への効果、転倒防止、認知機能への効果など多彩、多機能で、ビスフォスフォネート、SERM、デノスマブなどの骨吸収抑制剤は骨吸収亢進例に効果があり骨折予防に有効であり、PTH製剤は骨形成低下例に効果があり骨折予防に有効であるということでした。 遠藤直人先生は大変わかりやすく、骨粗鬆症について解説して下さいました。ありがとうございました。 |